- 学術情報 -

もの忘れ検診

講演会一覧

住民検診においてHelicobacter pylori検査はどのように活用されるか?−血清H.pylori抗体価、血清ペプシノゲン値同時測定による胃がん検診(ABC検診)の試み−

ペプシノゲン法による地域住民胃がん検診−「高崎市方式」10年間の検討−

ペプシノゲン法による胃がん検診 ABC検診(胃がんリスク検診)
 



住民検診においてHelicobacter pylori検査はどのように活用されるか?
血清H.pylori抗体価、血清ペプシノゲン値同時測定による胃がん検診
(ABC検診)の試み
Helicobacter Resarch 11(6):554-561,2007
はじめに 対象と方法 結果 考察 おわりに


考察

今胃癌検診のあり方が問われている。「平成17年度厚労省「祖父江班」報告−有効性評価に基づく胃がん検診ガイドライン」の内容をみて違和感を感じたのは著者らだけであろうか。このガイドラインの要旨(推奨のレベル)は以下のようになっている。

「胃X線検査については、死亡率減少効果を示す相応な証拠があるので、対策型及び任意型検診として、胃がん検診を実施することを勧める。胃内視鏡検査、ペプシノゲン法及びヘリコバクター・ピロリ抗体については、胃がん検診として死亡率減少効果の有無を判断する証拠が不十分であるため、対策型検診としては勧められない。……」

果たしてこれは本当に正しいのだろうか。あまりにも現実を無視していないだろうか。長年胃癌検診に携わってきた臨床医として、いくつもの疑問がわいてくる。第1に胃間接X線法が死亡率減少効果をもたらす唯一の推奨検査法だとしても、受診者が年々固定化し受診率が低迷化している現状をどう考えるのか。ちなみに対象人口に対する間接X線受診率は高崎市で平成17年度2.6%、鹿児島市では6.7%ときく。全国的にも郡部はともかく都市部では数%に止まっているものと考えられる。なぜか日本消化器がん検診学会の全国集計資料3)にはこの重要な数字が記載されていない。そこで国勢調査による最新の資料から類推すると、日本の40才以上人口6,900万人余に対して平成16年度の間接X線受診者(地域および職域)は458万人余りで3)受診率は6.6%ということになる。真に死亡率減少効果をもたらすためには受診率が30〜50%は必要であろう。では今後この間接X線受診率を向上させることが可能かといえば極めて困難(ほとんど不可能)と言わざるを得ない。この40年余り、特に昭和58年には老人保健法まで制定し検診勧奨をしたにもかかわらず受診率は既述の如くである。これには当然ながら理由があるのである。検診の流れは「集団から個へ」「国から地方へ」急速にシフトしつつあり、間接X線法は「集団」にはなじんでも「個」にはなじまない宿命を負っているからである。

更にこの間接X線法受診率の低迷については以下のような現実が存在することを我々は認識しなければならない。1)日常診療の中で胃X線検査は殆ど影をひそめ、上部消化管内視鏡検査が主流である現状で検診だけがX線法という設定は受診者になじまなくなっている。2)間接X線法の精度の問題(早期胃癌の示現率は39%4))。3)X線による被曝やバリウムの副作用など安全性の問題。4)そして最も重要なことは現在大学や基幹病院のスタッフの中に胃X線法を教えられる人材が極めて乏しく、また同時にこれを学びたいと考える若手の医師が殆どいない現状であろう。現在間接X線による胃の集団検診は「臨床放射線技師」によって支えられているのである。そのような状況の中で一部の地域で個別検診による直接X線法や内視鏡検診が試みられているがこれは費用対効果が著しく悪いことは周知の事実である。

第2の疑問は「ガイドライン」では、「胃内視鏡検査は胃がん検診として行うための死亡率減少効果を判断する証拠が不十分であるため、対策型検診として実施することは勧められない。任意型検診として実施する場合には、効果が不明であることについて適切に説明する必要がある」とあるが、では何故間接X線でスクリーニングした症例を「不確かな」胃内視鏡検査で精検しているのか。余りにも矛盾がありすぎはしないか。当然のことながら精密検査の精度はスクリーニングの精度より高くなければ意味がないことは自明の理であろう。ガイドラインの推奨検査法である間接X線の早期胃癌示現能は我々のデータで46.7%1)西沢らの報告4)で39%であり残りは精検(内視鏡)で発見された、異所チェック(やぶにらみ)なのである。この事実は間接X線法による胃癌検診に携わったものであれば誰でもが知っていることである。「死亡率減少効果」という「錦の御旗」のもとに余りに現実離れしたガイドラインといわざるを得ない。もっとも消化器内視鏡学会もこの「錦の御旗」を重く受けとめ、附置研究会「胃内視鏡検診の有効性評価に関する研究会」を第73回総会(平成19年5月)で立ち上げ、検証することになった。予断は許されないが、そう遠くない将来結論が出されるものと期待されている。

癌検診は単純ながら1)より多くの人に2)より安全に3)より精確に4)より安いコストでという原点に戻って検討されなければならないと考えている。大分前置きが長くなってしまったが、このような背景(今回のガイドラインが示される以前から存在していた)から我々は平成8年度からPG検診を導入し更にABC検診に至ったものでありこの新しい検診法を検証、発展させることこそ胃癌大国日本からの脱却を可能にする現在唯一の道であると信じ、あえてその背景にふれた次第である。

我々がABC検診を導入するに当たっては、井上ら5)Uemuraら6)Ohataら7)の臨床データが極めて重要であった。特に井上が人間ドックにおいてA群からの胃癌発見はなく、しかもA群の比率が40.8%であったとの報告は我々に勇気を与えてくれた。それまで日本人のHP感染率は80%、すなわちA群は20%以下と考えられていたのでこれは住民検診に応用できると確信し、平成18年度からPG単独検診をABC検診に転換したのである。ABC(D)群の性年令分布は既述の如くであるが予想以上にA群の比率が高く、十分胃癌検診に利用可能な方法と考えられた。特に20代、30代のA群が80%を越えている事実は、将来例えば20才までにHPの有無をチェックし陽性者を除菌しておけば、日本の胃癌罹患率、死亡率とも限りなく0に近づけうるという夢さえ与えてくれたのである。すなわちこのABC検診は癌の二次予防のみならず一次予防にも貢献しうる可能性を示唆している。

次に従来の要精検率という点からみると、集団検診(間接X線法)にかわる個別検診では直接X線法か内視鏡の二者択一(殆どが内視鏡を選択5))、または内視鏡検診となり、いわば要精検率100%の状態で検診が行われているわけであるが、まず血液でスクリーニングをしてローリスクグループ(A群)を1/2除外しB、C(D)群に対して精検(内視鏡)を行った後、それぞれリスクに応じた検診間隔を設定する新しい方法こそ合理性のあるスクリーニング法と考えられる。ただここで注意しなければならないのはHP除菌後A群となったいわゆるA′群のチェックである。A′群はA群と明確に区別しそれなりの経過観察が必要となる。我々の検診ではこの点に留意し問診票でチェックを行っている。内視鏡受診間隔をA群は5年に1回、B群は2〜3年に1回、C(D)群は逐年とした根拠は特にエビデンスがあるわけではないが、今迄の経験から胃癌のリスクを想定したもので今後の検討により変更の可能性はあろう。実はこのABC分類は検診のみならず、日常診療においても極めて重要である。胃の愁訴で来院した患者のABC分類を知ることは内視鏡所見と両輪の輪で正しい診断と治療・予後に結びついている。すなわちこのABC分類は背景胃粘膜を示す客観的マーカーでもあるからだ。筆者らの日常診療はこの分類なしでは成り立たないといっても過言ではない。検診データが日常診療に直結している点ではB型、C型肝炎検診と同様といえよう。

次に発見胃癌について考察してみたい。平成8年〜17年度10年間のPG検診の胃癌発見率は0.16%、直近平成17年度は0.11%であったが今回のABC検診では

0.26%と発見率の上昇が顕著であった。特記すべきは従来のPG単独検診ではチェックされなかったB群(PG陰性群)から10例の胃癌が発見され、うち4例は進行癌であった事実である。組織型は分化型が8例80%を占めており、萎縮性胃炎を経て分化型胃癌になるというCorrea8)の仮説だけでは説明できない結果であった。一方松本ら9)はPG陰性胃癌38例のうち分化型17例(44.7%)、低分化型21例(55.3%)で低分化型の方が多かったと報告している。PG陽性群からも低分化癌が発見され、またPG陰性群からも分化型癌が発見されている事実は胃癌発生の複雑さを物語っており更に今後の検討が必要と思われる。

最後に胃癌検診を別の視点から考えてみたい。医療に関する各種ガイドラインが今花盛りであるが、それぞれ欧米の論文を参考にしたものが多い中で、こと胃癌検診に関しては欧米の論文が殆どみられない。というよりも欧米では公共政策としての胃癌検診が行われていないのである。それは何故か。ずばり罹患率が低いからに他ならない。では何故低いのか。当然胃癌発生のメカニズムと関連してくるのである。胃癌とHPの関係について畠山10)はピロリ菌の中でもCagA陽性ピロリ菌、さらにそのうち胃癌を引きおこす危険性の高いサブタイプ(東アジア型)と低いサブタイプ(欧米型)が分子レベルで将来分類できる可能性を示唆しているが、その成果に期待したい。その問題こそ新しい胃癌検診のキーワードであると同時に従来型胃癌検診のピットフォールであったとも考えられる。将来に期待するにしても現時点では日本における胃癌検診は国内分離株から作製された血清ヘリコバクター抗体を用いたスクリーニングが最も合理性が高いと考えられる。いずれにしても今後の胃癌検診は、胃癌の発生にHPが深くかかわっている事実が明らかになった今、三木ら11)もいう通り血液で一次スクリーニングを行いローリスク群(A群)を検診の対象から除外しBおよびC群に内視鏡検査(今後は受容性の高い経鼻内視鏡12)が主流となろう)を行った後、検診間隔を設定する新しいABC検診が主流になることを期待している。真の死亡率減少効果は高い受診率があって初めて達成されるのである。行政(国)の主導で行われている肝炎検診の受診率が各都道府県で29.5%、政令市では40.6%であった(中間報告)13)実績を範としたいものである。ところで20年後、30年後の胃癌検診はどのようになっているのであろうか。歴史の評価に委ねたい。


表3 ABC検診で発見された胃癌44例の内訳(PDFファイル

表4 高崎市胃がん検診における胃がん発見費用の比較(平成8〜18年度)

一次検診受診者数 一次検診費用(円) 二次検診(内視鏡)受診者数 二次検診費用(円)(生検を除く) 総検診費用(円) 胃がん発見者数 胃がん発見率(%) 胃がん一例の発見費用
平成18年度 PG+HP 16,955 2,204万 4,491 5,838万 8,042万 44 0.26 183万
平成8年〜17年度 PG法 112,235 7,400万 17,757 23,084万 30,484万 174 0.16 175万
平成8年〜18年度 X線法 間接撮影 25,158 10,355万 2,482 3,227万 13,582万 41 0.16 331万
直接撮影 8,051 9,106万 1,726 2,244万 11,350万 16 0.20 709万
X線合計 33,209 19,461万 4,208 5,470万 24,931万 57 0.17 437万

PG+HP法 1,300円(H18年度)
PG法 1,000円(H8、9年度)
600円(H10〜17年度)
間接X線 4,116円
直接X線 11,311円
内視鏡 13,000円

  一般社団法人 高崎市医師会
  370-0829 群馬県高崎市高松町5番地28 高崎市総合保健センター内
  TEL:027-323-3966 お問い合わせは高崎市医師会事務局まで
ホームページに関するお問い合わせはこちら:tmainfo@mail.gunma.med.or.jp
  病院案内:027-325-0011
  Copyright(c)2004. Takasaki Medical Association All Rights Reserved.